「環境ジャーナリスト 津川敬情報」
2002年9月4日発
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・日台環境フォーラムの報告
・静岡県富士市で住宅地にガス化溶融炉建設?!
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 津川です。去る8月31日(土)から9月2日(月)まで、台湾の市民運動家、研究者、団体役員など6人を招き、環境問題で討論集会が開催されました。場所は東京晴海のホテルです。準備日数が極端に少ない中、藤原寿和、川名英之両氏による懸命のご努力により、これまで交流のなかった新しいNPOの方々の参加も得られ、小粒ながら中身の濃い国際交流の場が築かれたものと思います。
 
 第一日のテーマは午前中に青山貞一氏による「環境アセスメントの何が問題か」、津川が「国内における大型焼却炉市場形成と東南アジアへの輸出」などについて問題提起。午後は台湾側から一般廃棄物、産業廃棄物(台湾では事業廃棄物と呼ぶ)についての克明な現状報告がありました。第二日は川名氏や田坂興亜・アジア学院校長その他、台湾側の研究者による毒性化学物質、杉並病、PCB、農薬被害、PRTR、日本とアジアにおける農薬被害、放射線汚染、放射性廃棄物など、多岐にわたる研究報告が行われました(詳細な報告書が後日出版される予定です)。
 
 三日目は晴海近隣の「東京都二十三区一部事務組合」が運営する中央清掃工場、新江東清掃工場および東京都が所管する東京湾中央防波堤外側処分場(以下中防)の見学会を行いました。
 東京23区の清掃工場は古くから三菱重工業、川崎重工業、日本鋼管、日立造船そしてタクマのいわゆる「談合五社」がシェアをガッチリ握ってきました。すなわち中央が日立造船、新江東がタクマといった具合です。
 いま台湾をはじめとする東南アジアへの焼却炉輸出が活発化していますが、その背景には12月のダイオキシン規制を前に受注を伸ばしてきた自治体の案件がここへきて頭打ちになったことがあげられます。ちなみに受注ラッシュは98年から99年前半までがピークで、そのため今年11月末までにストーカ炉で約5〜6件、ガス化溶融炉で10件ほどが稼動をはじめる予定です。
 東南アジアに目が向いているもうひとつの理由はこれらの国々が迎えるであろう経済成長への期待です。しかし日本国内と違うのは強力なヨーロッパ勢と競合せねばならぬことです。日本での建設単価はごみ1トン当たり5000万円と高止まりしています。これは談合の“成果”にほかなりません(ただしガス化溶融炉の分野では日立造船が奈良県桜井市で半値受注したように乱れていますが)。これに対し、台湾、タイ、マレーシアなどは軒並み1000万円オーダーになっています。いかに五社がこの40年間にボロ儲けしてきたことか、誰の目にも明らかです。
 しかし今皮肉なことに台湾では全体にごみが減っているのです。たとえば台北市ではごみ収集量が1日当たり2505トンなのに焼却能力は4200トンもあり、産廃の受け入れや、基隆市などからごみを貰っている始末です。合中県では工場建設後ごみを燃やしていない高尾市でもごみが不足し、処理手数料を下げてもほかからごみを搬入したがっているといいます。
 にも関わらず五社勢に対抗するように荏原製作所がPFIというリスクの多い案件で東南アジア市場に食い込もうと必死になっています。こうした台湾の現状はまさに日本の縮図といえるでしょう。ちなみに荏原はマレーシアでガス化溶融炉(300トン5基)の受注獲得に向け別のメーカーとバッテイング中といいます。これからは「ダイオキシン撲滅」を錦の御旗にガス化溶融炉売り込み作戦が各国に展開されることになるでしょう。ドイツ国内の相次ぐ失敗でこの市場は日本の独壇場になっているからです。
 
   小生フォーラムの二日目は前からの約束で静岡県の富士市の学習会に出席するため参加できませんでした。富士市では昨年も学習会をやったのですが、ここへきて事態が急変しました。建設予定地がほぼ決まったのです。それは三つの案のうち、最も住宅地に近い場所であるため、地元にはいま怒りが渦巻いています。どうやら地元有力者と土地買収絡みの密約があった気配です。もしそこに決定しかかっているガス化溶融炉ができれば、施設の端から直近の人家までの距離は13メートルしかないという、どう考えても異常過ぎる話です。
 ガス化溶融炉について小生はこれを「街の中にできる溶鉱炉」と考えています。もともと溶鉱炉 という施設はきわめてリスクが大きく、安定するまでに100年の歳月がかかっています。いまなお大小さまざまなトラブルが労働災害も含め皆無とはいえず、コークス製造工場とともに環境汚染の塊みたいな施設です。にも関わらずその存在が許されるのは200ヘクタールとも300ヘクタールともいわれる製鉄所の広大な敷地内だからであり、一般人が近寄れもしない治外法権地域だからです。
 いま、自治体の中に緊張感と想像力が著しく失われています。前段に可燃ガスをつくる巨大な装置、後段に1350℃以上という「灼熱地獄」を抱えた施設が住民の生活圏の中で動き出す。そのことの恐ろしさに自治体の関係者が一向気づいていないということ自体が恐ろしいといわねばなりません。
 さて三日目の見学会に戻りますが、台湾の方々は特に焼却後の「灰の始末」に大きな関心を持っていました。中防(処分場)には23区内18の清掃工場から出てくる焼却残渣(焼却灰、処置後の飛灰など)を投棄していますが、大田清掃工場第二工場(灰溶融施設)からのスラグも再利用されることなく大部分そこに捨てられているのです。その点について帰りのバスの中でかなりの意見交換が行われました。
 最後にボランテイアで通訳にあたってくれたのは「株式会社蝶理」で生命科学部門の代表をしている方で、その翻訳ぶりが実に水際立ったすばらしさで、フォーラム全体をキチンと引き締めてくれました。国際的なイベントでは語学がモノをいいます。台湾の方はみんな英語ができ、当方はほとんどいません。いまからでも遅くはーーー。というには大いに憚れるというものです。  
 
       津川 敬
 
     tsuga@mtj.biglobe.ne.jp
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2002年9月19日発
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◆途上国支援へODA活用で環境装置を(社説)
9月13日付けの化学工業日報紙の社説全文
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 津川です。去る8月31日から9月2日に行なわれた日台環境フォーラムで大型焼却炉の輸出問題が論議されました。日本のメーカーの目はダイオキシン特需が一段落した現在、確実に東南アジア、アフリカなどに向いています。しかもその方便としてODAが浮上すると予測されていましたが、それを実現させようという動きが明確に出てきました。以下、9月13日付けの化学工業日報紙の社説全文です。環境問題が踏絵になっている大新聞よりも、こうした業界紙に産業界の本音がはっきり読み取れるということでしょう。

◆途上国支援へODA活用で環境装置を(社説)
 環境装置の需要が低迷している。その一方で海外、なかでも東南アジア、アフリカなど発展途上国の環境装置に対するニーズは高い。しかし購入するだけの資金がないのが現状。開発と環境をテーマとしたヨハネスブルグ・サミットが今月四日に閉幕して一週間経つが、実施計画に基づく途上国への支援として、日本の環境技術・装置の輸出を、政府開発援助(ODA)のひとつとして実施してみたらどうだろうか。
 日本産業機械工業会が先頃まとめた七月の環境装置受注状況によると、環境装置の受注高が十五ヵ月連続して前年同月を下回った。なかでも都市ごみ処理装置の市場は、処理能力換算で年五千〜六千トン前後だったが、二○○○年度には今年十二月から施行されるダイオキシン新規制に対応した商談が活発で、通常年の二倍を超え、その反動から二○○一年度以降、同装置の低迷がつづいている。予想されていたこととはいえ、専業のみならず、重機械、鉄工メーカーなどのごみ処理メーカー各社は国内の限られた案件をめぐり、受注競争にしのぎを削っている。海外市場に活路を切り開いているメーカーもあるが、中堅メーカーにとってはそう簡単なことではない。
 中でも二十以上が参入しているガス化溶融炉については受注競争が一段と厳しくなっている。事業を存続させるか、もしくは撤退を迫られるメーカーも出始めるのではと予測する向きもある。
 環境と開発は表裏一体であり、有害物質に汚染される前に適正処理することが地球問題にも不可欠なことは論を待たない。しかし途上国にはそれに充てる資金に乏しく、多くの場合、人口増加問題を抱え、環境関連に予算を割けない状況に置かれている。
 先のヨハネスブルグ・サミットでは具体的な数値目標を定めなかったが、世界各国が行動を起こすことで合意、大きな一歩を踏み出した。その趣旨に沿って、日本政府の施策としてごみ処理装置などを輸出する案件に対し、顔の見えるかたちのタイドのODAとすることは途上国に歓迎され、税金の使途として国民にも理解が得られやすいと思われる。日本メーカーには海外向けに基本性能を重視しつつ、廉価な装置を開発する努力が求められる。また相手国が装置を使いこなせるようにトレーニングのサポートも必要になろう。このことはごみ処理装置に限ったことではない。地球環境を守る上でさまざまな分野で今ある最高レベルの技術・装置を提供していくことは、モノづくり日本の使命である。

                           津川 敬
                           tsuga@mtj.biglobe.ne.jp